急がば回れ。これは非常に有名な言葉です。急いては事を仕損じる。とも言いますね。
簡単な話、焦って行ったり、準備不十分で行った場合は必ず失敗しますよと言う教えです。これはだれしも一度や二度は実体験として学んでいる事でしょう。
武士道において、この急がば回れはそれ以上の意味を持ちます。その意味合いに近い言葉が、石の上にも三年です。
例えば武術の修行を例にとってご説明します。武術の修行とは、一朝一夕で成るものではありません。まさしく三年程度はしっかりと修行する事で、ある程度の実力を身に付ける事が出来ます。
現代は、何かと時短や効率やインスタントなものが好まれます。これは本来正道から反れるものです。真実に目を向ければ、やはりお手軽に身につく知識や技術は、価値が低いものです。本当に価値あるものは、相応の情熱をもって習得する必要があるのです。
この、急がば回れをビジネスに置き換えて考えてみましょう。入社1年目の新人がいます。当然右も左も分からない状態ですから、即戦力には程遠い存在です。働いていると、辛い事や苦労する事が山積みにある事でしょう。ですが、その仕事を、本当にやりたくて始めたのであれば、三年はしっかりと修行のつもりで励めば、三年後には相応の実力が身につくものです。
途中で挫折したり、楽な道に逃げるのではなく、苦労を厭わず努力する事が、結局のところ早くその苦境を脱する近道になるのです。
ここで一つ勘違いしてはいけないのが、何かを始める時には、自分自身の本当の価値観に照らし合わせて吟味する必要があるという事です。簡単な話で言うと、やりたくもない仕事を三年も続けてしまうと致命的だという事です。
三年と言う時間は、短くはありません。相応の実力を養成する期間でもありますから、若年の時期には非常に重要な時間であると言えます。
そんな三年間を、本当にやりたい仕事でもないのに浪費してしまえば、ほかの人間にその分出遅れてしまう事になります。
よく、どんな仕事でも、務めたからには三年は頑張れと、人の人生だと思って適当なアドバイスをしてくる人がいます。ですが、三年後に全く別の業界に転職した場合は、全くの無駄な努力になってしまいます。ですから、自分に合わない、やりたい仕事ではないと、はっきりと言える場合は、すぐに辞めてしまったほうが良いのです。
急がば回れの話に戻しましょう。今度は経営者の目線から見てみましょう。一年目の新人は、当然即戦力にはなりません。OJTで現場に放り出し、一応勉強もさせながら即戦力として使うという方法は、一見無駄が無いようでも、実は長期的にみると自分を、そして自分の会社の首を絞める事になります。
付け焼刃、と言って、きちんとした工程を踏まずに付けた刃は、脆かったり鈍かったりするものです。OJTと言う名の、放置教育は、まさしくこの付け焼刃にしかなりません。知識や技術に深みの無い社員を量産しているに過ぎないのです。
武士道における急がば回れは、目先の利益に囚われず、安易な道を選ばずに、王道を進めと教えてくれます。
現代は、何かとスピードが求められる世の中です。ですが、本物の結果を出したいのならば、急がば回れ。しっかりと腰を据えて物事に取り組む必要があるのです。
江戸時代のとあるお坊さんが遺したこんな言葉があります。
思へ人かたきためしの巌にも
流るる水のあとは見えけり
千万石積み重ねたる米の山も
一つ一つの俵より成る
忍耐強く、毎日の積み重ねが大事です。一度思い定めた道ならば、自分を信じて日々精進、愚直に邁進する。
武士の修行は、そういったものなのです。