武士の魂と聞いて、何か思い浮かぶでしょうか。武士にとってなくてはならないものと言えば分かりやすいかもしれませんね。それは刀です。
もともと戦国の世においては、合戦で武勲を挙げる事が立身出世の近道になります。その為、合戦で成果を上げる事が出来る武器が必要になります。
刀がまさしくそれだ。そう思う方は多いでしょう。ですが、実は合戦の花形の武器は槍なのです。槍はとても長い武器です。刀と比べてもその長さの差は歴然です。刀と槍で相対する場合、刀は圧倒的に不利なのです。では、なぜ刀が武士の魂と呼ばれる重要な武器なのでしょうか。そんなに役に立つなら、槍でも良いはずです。
その理由をひも解く前に、刀の特殊性について説明しましょう。刀は、日本独自の剣です。日本刀とも呼ばれます。実は天皇家に伝わる、三種の神器という、日本国の重要な宝物においても、剣が含まれているのです。
日本人の本来の信仰は古神道です。現在でも神道においては、血の穢れを「赤不浄」と呼び、死の穢れを「黒不浄」と呼び忌み嫌う考えがあります。それにも関わらず、血を流す為の赤不浄の代表格とも言えそうな剣が神器に含まれている理由は、前述した特殊性にあると言えます。
刀で物を斬るという経験をしたことがある方は、現代では稀でしょう。刀は非常に丈夫で優れた刃物ですが、使いこなすには相応の修行が必要な、扱いの難しい武器です。
刃の立ち方である刃筋を整え、刀の通り道である刀線を正す。そして心を落ち着け、力まず意気込まずスパッと斬る。この様に、いくつもの要素が正しく整えられて初めて刀は良い働きをしてくれます。
人も刀も同様。筋を通さなければ、良い働きはしてくれないし、こちらの要望にも応えてくれないのです。その為、刀はまさしく「自分を映す鏡」であると言えます。
三種の神器に戻りましょう。一つは勾玉。一つは鏡。そして剣なのです。こう考えると、自分を映し出す鏡である剣が、新規である理由も自ずと分かりますね。
人は自分自身を正しく見つめる事が苦手です。卑屈になったり、逆に慢心したり、心のバランスは簡単に崩れてしまうものなのです。そんな時に、自分自身を見つめなおし、しっかりとあるべき姿へ導いてくれるのが刀なのです。
「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」
敵を知るだけでなく、自分自身を正しく理解する事が、必勝の鉄則なのです。ビジネスでも同様の事が言えます、競合他社の研究ばかりでは、自社の製品のクオリティの向上が疎かになってしまいます。また、自社の製品の優れた部分を正しく把握する事で、効果的にマーケティングも行えるのです。
刀は、融通が利かないものです。ちょっと気を利かせて斬らせてくれる。こんな事は絶対にありません。その為、刀を扱う者はまさしく「真剣」に取り組むしかないのです。この、真剣な心構えを正しく身に付ける時に、刀や剣術に勝るものは無いと断言できます。
我々現代に生きる人間にとっても、体の中心に不動の芯を据えて、何ももにも屈しない強さを得たり、超常的な集中力を得るためには、武士道における剣の取り組みを理解し、実践する事が近道になるのです。