武士道において「中庸」が重要な在り方であると同時に、陰陽の理解もとても重要です。
陰陽について簡単にご説明します。物事は表裏一体で、表があれば必ず裏もあるという事です。人で例えるならば、どんなに親切で完璧な人間に見えても、そうではない悪い部分や言動は必ずあるし、それが普通だという考え方です。
光が強ければ、当然闇も濃くなります。どちらか一方で存在する事は不可能なのです。ですから、他人に対して、常に良い側面だけを期待して、その裏側、つまり自分の意にそぐわない部分を忌み嫌い、否定する事は、物事の本質をとらえていないし、結果的にその相手との関係性を健全に続ける事さえ不可能になります。
例えば、私は武術の師範として、生徒の皆様に指導を行っております。武術の師範と聞くと、品行方正で、さぞ素晴らしい人物なのであろう。そんな風に誤解する人が多いです。
武術の指導者と言うのは、まず何より大事なのは、武術の実力と指導力です。例えば英会話教師で例えると更に分かりやすいでしょう。礼儀正しく、親切で、道徳心に溢れる。だけど英語は喋れない。あなたはこんな方に英会話を習いますか。
武術の師範や、弁護士、例えば教師。こんな人たちだって普通の人間ですから、裏の部分はあるし、聖人君子ではありません。光があれば闇もある。これは不変の真理です。
つまり私生活でも、ビジネスでも、人付き合いを本当に深めたいのならば、良い面悪い面を合わせ飲む度量があなたには必要となります。
陰陽は、当然自分にもあります。これを読んでいるあなただって、本当にきれいな部分しか持っていない、完璧人間ではないはずです。もし完璧だと思っているなら、重大な思い違い出ると言わざる負えません。陰陽は必ず存在します。
陰陽は人の無い面だけに留まりません。全てに言える普遍的真理です。男女も陰陽です。東洋の思想としては、男性が陽で、女性が陰とされています。なんだか女性に申し訳ないのですが、しかし、陰陽は良し悪しではありません。
男性は常に発展的な向上を望みます。力強く進む力があります。変化を恐れないとも言えます。
女性は安定や安らぎをもたらします。共感力が高く、競うよりも分かち合います。子育てには必須の能力です。
しかし、裏を見ればどうでしょう。
男性は過去を振り返りません。ですから何度も同じ過ちを犯したりします。そして安定を阻害します。
女性は過去を掘り返します。過ぎた事を理由に人を責めます。そして発展を阻害します。
男性が女性の裏に目を向けた時、「愚かだ」と感じます。
女性が男性の裏に目を向けた時、「馬鹿だ」と感じます。
どっちもどっちです。つまり、男性も女性も表裏一体であるのみならず、男性にも表裏が、女性にも表裏があります。どちらか一方に目を向けて判断してはいけません。しかし、残念な事に、我々人間は、良い面には疎く、悪い面には鋭い目を持っています。
陰陽は等しく同じ大きさで存在しています。しかし、見る側の目によって、その関係は歪められます。あなたが、目の前の誰かを見る時に、自分の気に食わない面が目に付いてしまうかもしれません。そうした時にどんどん相手が嫌いになるし、相手にも嫌われるのです。敵を自分で積極的に作っているようなものです。これは「和」を尊ぶ武士道から外れますし、実際に受ける不利益が大きくなってしまいます。
上司と部下のケースでご説明します。例えば、男性は年功序列的な考えが強い傾向にあります。上司に失礼が無いようにと気を使いすぎるあまりに、いつまでも打ち解ける事が出来ない、なんて場合が見られます。
例えば女性は、立場の垣根を越えて親しくなる事に喜ぶ方も見受けられます。その場合は、親しくなろうと努力しすぎるあまり、上司から失礼な奴だと思われ、嫌われるような現象も見受けられます。
男性部下は、分をわきまえすぎて失敗したと言えます。
女性部下は、度を越しすぎて失敗したと言えます。
まず誤解が無いように言っておきます。分かりやすくするために、男女の一般的な性差を例に挙げています。ですが全ての男女が、このテンプレートに当てはまる事は絶対にありません。ですが、この様な傾向は、やはりあるという事も覚えておいてください。起きる問題や課題の傾向は、やはり性別において似通ってくるという事です。
大事な事は、自分に関わる裏の部分がしっかりと把握していれば、その裏の部分に正しく対処が出来るという事です。決して、臭いものには蓋で、見ないようにしてはいけません。確かにある裏の部分を見つめ、受け止めて、それらが表に出ないように律する。その考え方と、考えの実戦こそが、武士として必要な徳の有る振る舞いとなります。そしてこの「徳」は、現代のビジネスマンにもまさしく求められる資質に他なりません。
陰と陽の中間に立ち、自在にコントロールする。これがまさしく中庸です。ですから、中庸に至るためには、陰陽への深い理論が大事なのです。
例えば、重要な業務の進行に遅れが出れば、当然焦る気持ちが出るでしょう。自分の手を離れた部分で、スケジュールの遅れが出ているなら尚更です。自分で動けないもどかしさで、ますます焦ってしまうでしょう。しかし、現状を嘆く事は容易な道ですし、なんな利益ももたらしません。考え方を変えれば、更に準備が出来る時間を得たとも解釈できます。前向きな表の面に目を向ける事で、今自分にできる事を発見し、前向きな取り組みの時間に変える事が出来るのです。
どんなに絶望的な状況でも、必ず活路はあります。悲惨に思える出来事にも、救いはあるのです。要は、裏の面に囚われずに、陽の面を正しい大きさで捉える事が大事です。裏の面を忘れるのではなく、裏も表も、正しい大きさで受け取るのです。
そうして、常に陰陽の真ん中にいる。これが武士にとっての芯となります。芯の有る人間には風格が備わります。上に立つ人間は特に、風格と品格が絶対的に必要です。
陰や陽に偏って、決めつけを行ったり、不当な贔屓を行っては、誰もついてきません。感情に任せて喚き散らす様は、まさしく無様と映ります。
正義感も、裏に転べば鬱陶しい独りよがりです。
武士はそんな表裏の、真ん中に立つのです。
ビジネスと言う非情の世界にあるビジネスマンも、やはり真ん中に在り、自由闊達に、正しい動きを行うべきなのです。そうすれば、自然と人や結果は着いてきます。
陰陽の理解と実践は、ビジネスマンに必須の資質です。